鶏と共に生きる

蓮ヶ峯農場
峰地 幹介さん    みねぢ みきすけさん

綾部市出身。三重県の私立で有機農業を教える愛農高校で、野菜を中心に畜産、野菜、作物、果樹の基礎を学ぶ。卒業後も約一年間、農場助手として働く。
長野県の松川町で約6年間、果樹と養豚に携わる。その後、再び三重県に戻り、有機農業で野菜生産をする会社に就職。1年半ほど勤務した後、蓮ヶ峯農場を継ぎ、現在に至る。
蓮ヶ峯農場公式HP  http://hasugamine.com/hasugamine/

農業関係に進んだきっかけについて教えてください。

じつは、元々農業関係に進むつもりは全くなかったんです。高校進学のタイミングでは、どちらかというと建築関係の学校を探していました。でも、なかなか自分に合うところが見つからなくて、たまたま行き着いたのが三重県の農業高校、愛農高校でした。ただ、それも農業がしたいという気持ちからではなくて、学校として純粋に楽しそうだったから、そこに進学することを決めましたね。(笑)そこからですかね。自然と流れに任せて、農業の世界に入っていったっていう感じですね。なので、きっかけとしては、愛農高校になりますね。

なぜ養鶏場の経営を始めたのですか?

父の死がきっかけですね。父が生きていれば、やっていなかったと思います。元々は両親がこの綾部市上林地区に移り住んで、農場を始めたんです。父が20代の頃、輸血で感染した肝炎の影響で、余命2年の宣告を受けました。そのとき、隣の病室で、いつも玄米を炊いて食べている患者さんに、自然療法の話を聞いたそうです。直感的にこれで治ると確信した父は病院を出て、断食道場で2週間の断食を行い、いのちを吹き返したそうです。それでも父は、肺が片方しかないこともあって無理のできない体でした。だからこそ本能的に、自然が豊かで、家の横には小川の流れるこの場所を、生活の場に選んだのだと思います。自分たちで家を建て、山から水を引き、薪で風呂を沸かす生活を選びました。自給自足ができるほどの田畑を耕しながら、獣道を進んだ山奥に小さな鶏小屋を建て、そこに100羽ほどの鶏を飼い始めました。それが蓮ヶ峯農場の始まりですね。そんな父がいなくなって僕なりに思うところがあったんですよね。親子ってなんか難しいじゃないですか。特に男同士って。だけど、父が亡くなってから、取引先の方が「蓮ヶ峯農場、どうにかならんのか」と気にかけて、声をかけてくれたりして。それで、真剣に考え始めましたね。親父が死ぬまでは、絶対自営業なんてしないと思ってたんですけどね。まあ、親父としては意地でも継がせたかったみたいですが。結果オーライでしたね。(笑)

継いでからご苦労もあったかと思いますが、いかがですか?

そうですね。大変でした。(笑)どちらかというと、それまで豚を専門にしていて、鶏をやったことがなかったですしね。継ぐと決めた時に、一から勉強しました。それに、継ぎ始めた頃っていうのは、売り先が十分になかったんです。もちろん父の代からお世話になっている取引先の方もいらっしゃって、皆さん良くしてくださいましたが、それでも大変でしたね。売れる売れない関係なしに、鶏は卵を毎日産みますから。半年間くらいですかね、かなり苦しみました。僕の場合は、農業生産の基本的な知識や技術はありましたが、営業とか経営はさっぱりでしたから。 (笑)これから農業したいと思っている方は、まず何か自分で仕入れて、それを売れるかどうか試してから始めることを薦めますね。農業やりたい人はいっぱいいますけど、売り先が十分に確保できない、自分の思った値段で商売できないから、食べていけないんですよね。生産すれば生活できると考えている人が多いですが、そうではないんです。農業って生産するだけでも大変なのに、かつ自分で販路も開拓しないといけない。極端な話をすると、販路をうまく開拓できる人っていうのは、作るのが下手でも食べていけると思いますよ。

蓮ヶ峯農場のこだわりについて教えてください。

うちは、売り先の多くがオーガニックマーケットと百貨店なので、「身体に悪くなくて、美味しいもの」っていうのが大前提ですね。そのために取り組んでいることはいくつかありますが、特に重要なのが、餌ですね。既に出来上がっている餌を買うのではなくて、自分で仕入れたものを自分で混ぜる、そして自分の味を作るというスタンスです。普通は餌屋さんが混ぜたものを買うんですけど、そうするともう味が決まってしまうんですよね。卵も肉も結局は餌なんですよ。品種だとか飼い方よりも餌の影響が非常に大きいです。だから、自分独自の配合飼料を作るということには特化しています。とにかく健康な鶏を育てることが基本です。そして、糞が臭くないこと。この農場、ほとんど臭いしないでしょう?健康な鶏の糞っていうのは臭くないんですよ。それだけ環境が整っていて、良い餌を食べているという証拠ですね。

こちらで肥育されている黒峰シャモについて教えてください。

国内の鶏肉のほとんどがブロイラーといわれる鶏種なんですが、欧米の会社から毎年毎年その雛の元を輸入しているんですよ。だから、外国からそれを仕入れないことには日本で鶏肉は作れない。じゃあ、地鶏っていうのは何かというと、在来種が50%以上含まれている鶏のことで、在来種というのは、大雑把に言うと国内で繁殖可能な鶏のことです。ですから、一般的に出回っている地鶏は、半分から4分の1程度、生育の早い外国鶏の血統を入れて生育速度をコントロールしているんです。地鶏の飼育基準である80日でちょうど出荷できるように。それに比べて、黒峰シャモは在来種100%の本地鶏です。飼育日数も140日以上と、一般的な地鶏とは比べものになりません。このシャモは生産効率こそ最悪ですが(笑)、肉質が圧倒的に良いです。肉の水分自体も少ないし、旨味の伝わり方が他の鶏とは全然違いますね。独自にブレンドした配合飼料を与えることで、脂の質もコントロールできますし、旨みのパフォーマンスを更に上げてやることも可能です。僕が目指している“肉”というのは、飼料で味付けしたような強烈な旨さではなく、肉本来の旨みを最大限に引き出して、それでいてしつこくなく、野性味あふれるような…そんな肉なんです。まだ黒峰シャモは走り出したばかり、もっともっと良い肉に仕上がっていくと思います。

「黒峰シャモを綾部市の特産品に」という動きがあるようですが。

蓮ヶ峯農場はどこまでいっても、卵がやっぱりメインはメインです。だけど、黒峰シャモは綾部市の特産品として、自信を持って提供できる鶏であることはたしかですね。観光客が綾部市にわざわざ食べに来るような特産を生み出したいという気持ちですね。

綾部市の魅力について教えてください。

この上林という地区は、観光面で非常に魅力がある地域だと思います。週末だけのお洒落なカフェもいくつかあって、大阪や神戸のような都会からのお客さんで行列になるお店もあります。そういった魅力的なスポットがいくつか点在しているので、スポット同士を繋いだ形での観光ツアーを組むというスタンスはありなんじゃないかなと思いますね。例えばこの蓮ヶ峯農場で鶏を見学して、次にうちの卵と肉を使ってくださっている店に行って食べるとか。時間があるならシェフに肉料理を教えてもらっても良い。近くに放牧豚をやっている方もいますから、それも面白いですし。鶏とか豚、なんならジビエの解体とかもコースに入れちゃって、食の生産~食卓みたいなツアーなんかも、面白みはあるんじゃないですかね。それから、この地域は特にIターンで来られる方が多い。そういう方たちがお店をされているケースも多くて、新しい風が入ってきています。あれって不思議ですよね。センスある人がやれば、場所なんて関係なくどこでも繁盛するんですよね。獣の方が多いような山里で、本当にびっくりしますよ。人がいかに財産かということですね。そのうち近くの古民家でシャモ料理屋がオープンするかもしれません(笑)

今後の展望やチャレンジしたいことをお聞かせください。

今後は、農福連携事業にも取り組みたいと考えています。利用者さんと一緒に豚を育てて精肉、加工して販売するというものです。既に農福連携で畜産や農業をされているところはたくさんありますが、そういうところの利用者さんって、とっても生き生きされてたんです。もちろん、室内で内職が好きな方もおられます。でも、外仕事が好きな利用者さんだって少なくないはずなんです。生きものと接する、外で働くというのは、行動範囲も広がりますから、当然危険が伴います。だからと言って、簡単で単調な作業ばかりというのも違うような気がします。利用者さんの個性に合わせて仕事が選べるような作業所が理想的ですね。

アニマルウェルフェアという言葉がありますが、動物福祉という意味です。僕は家畜を飼う上で基本的な考え方だと思っています。人や環境を無視してアニマルウェルフェアを考えることはできません。家畜への感謝を忘れず、豊かに人間らしく生きられる農場。みんなでつくっていきたいですね。

(平成30年11月取材)

※掲載している記事の内容及びプロフィールは取材当時のものです。

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