漆木と漆掻き技術を
守り伝える!

やくの木と漆の館 館長
髙橋 治子さん    たかはし はるこさん

大阪府出身。デザイン関連の仕事の延長線上で、香川県漆芸研究所で漆と出会い、学ぶ。漆の需要が傾向的に減少していること、産業としてさらなる研究をしたいという想いから京都へ。平成12年7月やくの木と漆の館オープン、職員として勤務。現職に至る。
やくの木と漆の館紹介ページ(福知山市HP)はこちら
※当施設は、夜久野町が平成18年に福知山市に編入され、
「福知山市夜久野町」となったことから、市立施設となっています。

漆について教えてください。

漆ってどのように採取するかご存じですか?漆の木に傷をつけることで得られる樹液が漆です。そして、その漆の木に傷を入れる作業のことを“漆掻き”といいます。傷を入れることによって、木が「この傷を治さなきゃ」と樹液を出します。傷の入れ方が甘いと、よく「漆の木が笑ってる」と言ったりします。それはなぜかというと、漆の木は危機感を感じないと、樹液を出さないんですね。そのため、ほどほどに傷を入れてあげる必要があります。

漆にはどんな特徴があるのですか?

現在、日本で使用される漆の98%が中国産なんです。香川県の漆芸研究所では、よく中国産の漆を使って勉強していました。夜久野町へ来て、初めて日本産の掻きたての漆に触れたとき、その柔らかさ、ニオイの違いにすぐ気づきました。漆って発酵するんですよ。採った漆は発酵して、少し酸っぱいニオイになります。そして、もう一度発酵し、甘いニオイになります。この段階の漆は、ぱしっと乾いて、カチンと固まります。中国産のものは、その段階から時間が経ち、少し疲れた漆になってしまっているんです。元気な状態の漆が、カチンと固まると、実は天然塗料の中では一番丈夫なんです。酸やアルカリでも溶けません。しかも、乾いた塗料が、削れて口に入ったとしても、天然塗料ですので、身体に害はありません。丈夫でありながら安全性も高いため、お箸やスプーンなど口につける材には、よく漆が使われています。

また、お椀一つとっても、欠けたら捨てるっていうのが今の時代当たり前ですけど、漆の製品だったら、塗り直せるんですよ。修理も出来るんです。だから、もし骨董品など大事にしたいものをお持ちでしたら、漆を塗り、リメイクして、自分なりに使うことも可能です。100年前のものが、自分らしく楽しく使えるなんて、そんな贅沢ないですよ。新しいものが溢れたこの時代だからこそ、昔のものを自分らしく使うことが、大切で素敵なことだと思います。

漆は木から毎年採れるんですか?

いいえ、採れません。漆が採れるようになるには、苗を植樹してから約10年かかります。先ほど申し上げたように、採取するには木が危機感を感じる程度に傷を入れてあげなくてはいけない。その傷が完治するのにも10年くらいかかるんです。さらに、2回目に採れる量は非常に少ない。ですから、木を切り倒し、再度10年育てるということになります。

すごい。大変ですね。

はい。大変です。さらに言えば1シーズンに、それだけの傷をつけて、1本の木から得られる量は約200cc、牛乳瓶1本程度なんです。

満足に漆を得るには、大量に木が必要ですね。

はい。ただ、去年掻いた木は約10本ですね。まだまだ全然掻けていないです。この施設で勤務することになったとき、思ったより漆木がないという現実に直面しました。現在でも、下地などでは中国産のものを使用していますが、特徴あるものを作るためには、地元産の漆が多く必要です。なので、「ここでは、漆の木を植えることからはじめなくてはいけないんだ」と認識しました。当時、丹波漆生産組合という組合があり、組合長で岡本嘉明さんという方が、この館をとても気にかけてくださっていたんです。そのおかげで、私も組合に加入させていただき、活動を手伝わせていただきました。邪魔なだけだったかも知れませんが。笑

そんな風に、組合の方たちと一緒に活動を続けてきたことで、少しずつではありますが、漆の木を植えるという活動自体が形になってきました。丹波漆生産組合はNPO法人丹波漆と組織を変え、数えられる程度しかなかった漆木が、現在800本弱植わっている状態にまでなりました。ただ、先ほども申し上げたとおり、植樹から10年経たないと、樹液を採れませんので、数年後に、やっと集中して掻けるようになっていくかなという状況ですね。NPO法人丹波漆は、年間100本の漆木の植樹を目標に活動しています。100本の木が10カ所あればローテーションが組めるでしょ?そういう意味では、「目指せ1000本」ですね!

やくの木と漆の館について教えてください。

1991年には「丹波の漆かき」が京都府指定無形民俗文化財に指定されています。この施設は、その技術を伝え、広めていくことを目的として設立されました。現在、日本では漆の98%が中国産という中で、全国の漆産地は次々と姿を消していき、生産技術を継承している地域は、全国でもほんのわずかしかありません。

ここには、芸術作品から日常用品まで木と漆塗りの作品展示・漆の資料研究などのスペースがあります。作品展示は、だいたい2~3ヶ月に1回展示物を変更していて、現在は、能面展を開催しています。実は、能面の裏面には、演者の汗から面を守るために漆塗りをしているんですよ。

※能面展:平成29年2月14日まで

どういったことができるのでしょう?

作品展示の見学、漆製品の購入のほか、体験工房もありますので、実際に漆塗りができます。ご自身の陶芸作品に漆を塗りたいという方や、木工が趣味の方など、ご自分の好きなものに漆を塗って、楽しんでいらっしゃいます。最近では、スマホケースに塗る方なんかもいらっしゃいますよ。こちらで材料も購入いただけますので、手ぶらでのお越しも大歓迎ですし、絵付け体験という比較的お手軽なものもあるので、気軽にお越しいただきたいですね。お子さんや絵が苦手な方、大丈夫です、型紙も用意しておりますので。笑

髙橋さんが思う福知山の魅力とは?

福知山市はご存じのとおり、大都会ではありませんが、市街地まで行けば、なんでも揃います。便利な田舎という感じです。市街地から少し出れば、自然がたくさんありますし、農産物にしても豊かな土地柄なので、気持ちよく住めます。北近畿の交通の結節点だけあって、京都や大阪、神戸まで1~2時間で行けますし、城崎や天橋立のような観光地にも比較的すぐに行くことが出来ます。素敵な場所ですね。

今後の展望をお聞かせ下さい。

この施設ができたことによって、地元の小学校が学びに来てくれたり、町民のみなさまに漆、漆掻きの一部を理解していただけるきっかけになったかなと思います。また、地方はどうしても人口減少という問題に直面します。だけど、私の周りだけでも、この施設のスタッフが、この施設をきっかけに福知山市に就職してくれたり、若い男の子が漆かきの後継者として頑張ってみたいと、ここに住み着いてくれたり、そういった方たちは10人くらい知っています。漆がきっかけで、夜久野町に住んでくれているわけです。漆の魅力を理解され、田舎で暮らすことが受け入れられる。そういう人達がもっと増えればいいなと思っています。

都会には、いっぱい刺激があると思います。だけど、それは人間が作った刺激です。そうではないもっと自然豊かな刺激を受けて作られたものを目指したい。それはやはり、地方、田舎でしかできないんです。そういうものを将来作れたらいいですね。

(取材:平成29年1月)

※掲載している記事の内容及びプロフィールは取材当時のものです。

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